★ひと目ぼれ・・・

 「ひと目ぼれをしたことがありますか?」みたいなアンケートをたまに目にする。こういう質問が成立するのは、「ひと目ぼれをしたことがない」人がけっこういることが前提として存在するからだ。

 まさか、と思う。

 自慢じゃないが(ほんとに何の自慢にもならない)、ひと目ぼれ以外はほとんど経験したことがない。「ほとんど」と書いたのは、具体的にすぐ思い出せる経験がとりあえず一つもないからであって、もしかするとほんとにぜんぜんないかもしれない。

 何週間か前の新聞に、日本人は世界でもひと目惚れ率の際だって高い国民だという調査が掲載されていた。個人的なことだと思っている自身のふるまいも、こうして「国民性」の一部に位置づけられてしまうのはあまり嬉しくない気がするのだが。

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 さて、息子の自転車を調整するために久しぶりに立ち寄った自転車屋で、たまたま店の奥にあった自転車に目が止まってしまった。なんかもう、文句なしにかっこよく、細部に至るまで美しい。運命的な邂逅、好きな言葉で言えば、必然的偶然だ。そしてお決まりのひと目ぼれである。

 2週間ほどの間、悶々とする。最終的に2日連続自転車屋に行って、2日目に注文する。予定調和だ。最初から買っておけば良かった。

 買う前に少しだけ試乗させてもらう。予想はしていたのだが、今乗っている自転車よりも格段に固い乗り心地で、お尻も痛くなりそうだ。坂だらけの自宅周辺と頼りない脚力を考えれば、変速機がロード用なのもいただけない。

 だが、試乗する段階では、もはや購入は決定している。「あばたもえくぼ」でも「恋は盲目」でもない。欠点は欠点として理解していても、ひと目ぼれには勝てないのだ。

 困るのは、相手が人間の場合とは違って、ちょっとしたお金を出すだけで、ひと目ぼれが簡単に成就してしまうことだ。それを「喜ばしいのは」と思えないところが性格の暗さである。

 いずれにせよ、まだ手にしていないこの自転車とは苦労をともにしそうである。決して多くはない、成就した本当のひと目ぼれが、やはりそうであったように・・・