●突然の冬
斎場は寒かった。
つい先日、真夏の格好をしていたのが嘘のようだ。喪服の下に黒のベストを着ていても、外にいると寒さを感じる。
立冬を過ぎた日にふさわしい。
祖母は、10基ある炉のうち、「8」と書かれた穴の中に吸い込まれていった。扉を閉めて火が放たれると、稼働中のライトが灯る。数えると、7基に灯がついていた。
か細く昇る野辺の煙を見て故人を偲ぶ風情はない。確かに煙は昇っているが、高性能炉が吐き出すそれは、触媒やらフィルタやらで処理された、7人が渾然一体となったものであろう。
見ると、昨夜一瞬叔母と見間違えた従妹が、泣きはらした顔をして歩いている。
後で聞くと、その姉も、3歳の息子に「ママ、何で泣いてるん?」と聞かれていたそうだ。
祖母にとっては不本意な人生だったかもしれないが、享年百にして泣いてくれる孫娘たちがいるのは幸せなことである。
それを知らないのがひとり祖母だけだというのが少し悲しいけれど。
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家に帰ると、部屋の中も寒い。
今シーズン初めて床暖房を入れた。足許からふわりと暖かくなってきた。