●出前無常

 土曜日も仕事の家人が夕刻帰ってきて、「外食に出かけるのもしんどい」というので、さて夕食はどうしようかということになった。

 麻婆豆腐はどうかと提案してみたのだが、豆腐はないしもちろん作る元気もないという。そもそも、ご飯がない。

 今日の事態はあらかじめわかっていたのだが、私が作れるのはスパゲティぐらいである。そのスパゲティは同じような事情で昨日食べた。

 しかも、私が作る予定だったのに、思いの外仕事がはかどらなくて帰宅が遅くなり、結局家人がほとんど作ってくれた。

 仕方ないので、久しぶりに出前でも取ろうかということになった。

 まず、2回ほど注文したことのあるサンドウィッチの宅配に電話する。これは半ば以上予想していたことだが、「おかけになった電話は現在使われておりません」だった。

 店はつぶれいてるが、そのまま家の電話として使っていたりしたらどうしようか、「サンドウィッチの宅配、まだやってますか?」って聞こうか、いや、それだと、もしまだやっていたら失礼だろうとか、いろいろ心配したのだが、取り越し苦労だった。

 次に、以前はときどき取っていた中華料理屋に電話した。そこはまだ営業しているという妙な確信があったのだが(最近も店の前を通ったはずだ)、その電話も「使われておりません」。

 どうしようかと、出前のチラシを繰っていると、これもつぶれている、これは店が変わった、ここはもうやってない・・・と、そういうのがぞろぞろ出てくる。中には、「21世紀新メニュー」と麗々しく書かれた分厚くて豪華なパンフレットもあって、余計に虚しさを誘う。

 思えば、21世紀が始まってからもう9年目に入っているのだ。

 みんな、その後どうしてるんだろう?

 結局、家人は自分で野菜炒めと目玉焼きを作って、食パンで夕食とした。

 私は、その野菜炒めとインスタントラーメンを食べ、何だか物足りなかったので、お餅を一個焼いて食べた後、さらに食パンを1枚、蜂蜜を塗って食べた。

 結果として、まともな夕食より高カロリーだったような気がする。

 息子は一昨日からスキー実習だとかで信州に出かけている。

 それにしても、つぶれた店々のパンフレットにかけた「思い」なんかを読み取っていると(そこには「夢」が語られていたりするのだ)、人ごとながら目が潤んでくる気さえする。

 今後出番のなくなったパンフレットは懐古の情を喚び起こし、捨てるにはしのびないのだが、やはり置いておくわけにもいかず、まとめて写真に納まってもらってチラシの山の中へとお引き取り願った。

 無事、成仏・リサイクルしてほしい。