◆行きすぎたPC?
標題のPCとは、Political Correctness のことで、日本語では「政治的正しさ」などと訳される。
そう訳してもぜんぜんわかりやすくならないのだが、要するに、「人種・宗教・性別などの違いによる偏見・差別を含まない、中立的な表現や用語を用いること」(デジタル大辞泉)である。
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さて、今日は短く。
Criminal Minds という FBI を題材に取ったドラマを見ていると、"rabies" を字幕で「恐水病」と訳していた。
恐水病が重要なテーマであるため、それがわからなければ物語が理解できないのだが、その後、話が進まないと、ああ、アレのことか・・・とはなかなか気づけない。
あまり知られていないと思うのだが、何の病気のことかおわかりだろうか。
実はというか、「狂犬病」のことである。
恐水病と言われて即座に狂犬病を思い浮かべる人が、どのくらいいるだろう?
私自身、しばらくひっかかり、「恐水病って何だったっけ? 聞いたことがあるような・・・」と思いながら、怪訝な気持ちを抱えて画面を見ていた。
「そうだ! 狂犬病のことだ」と気づいてすぐ、例によって「訳者が愚かだからこんな訳をつけるのだろう」と考えた。
試みに、「狂犬病」と「恐水病」を完全一致で Google 検索してみると、当然のことながら、
1千万:3万
になった(概算)。約333倍、「狂犬病」のほうが使われている。
念のため、site:go.jp(日本の政府機関のみ検索対象)とsite:ac.jp(同様に高等教育研究機関のみ)で調べてみても、それぞれ
3万8400:391
6380:129
だった。
さらに、「恐水病」で検索できていても、見た範囲ではすべてが「狂犬病」について述べており、そこに「恐水病とも呼ばれる」のように書かれているから引っかかってきたに過ぎない。
ということはやはり、訳者が愚かだから、「恐水病」などと訳したのだろうか。
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最初はそう思ったものの、すぐに、「これはもしかして、Politically Correct な(偏見や差別を誘発しないような中立的な)表現を使わされたのかもしれない」と思いあたった。
(実際はどちらなんでしょうね)
しかし、政府や大学なんかも、圧倒的に「狂犬病」を使っているのである。
もし Political Correctness のために「狂犬病」を避けたのなら明らかに行きすぎだし、それによってドラマが(少なくとも途中まで)訳のわからないものになってしまうのはとても残念だと思う。