●行く前から憂鬱

 夏のアイスランドはとにかく宿泊施設が不足しているそうで、いつものヨーロッパ旅行でやってきたように、行き当たりばったりで当日の宿を見つけることなどほとんど不可能らしい(ほんとかな?)。

 なので仕方なく、暇を見つけて予約を取ろうとしているのだが、これが想像以上に大変だ。

 とにかく数が少なく、高い。

 なんとか安いところを見つけて予約するのだが、それでも1泊2万5千円とかになったりする(3人で素泊まりの価格です)。

 これまでのヨーロッパだと、私が選ぶような安宿は、同じ条件で1泊6千円〜1万2千円というのが相場だった。それでも、清潔で瀟洒なペンションとか、花で飾り立てられたバルコニーがある素敵な宿とかであり、嫌な思いをしたことは一度として思い出せない。

 場合によっては朝食込みで一人あたり2千円から4千円ということになり、逆に安すぎるような気もするが、宿泊費が安いことは、長めの旅行が好きな私にとってヨーロッパに行く大きなモーティベーションの一つになっている。

 思い切って、フランスの豪華なシャトーホテル(お城がホテルになっている)に泊まったときが140ユーロ(今のレートで1万8千円)。見たこともないような豪華な部屋・食器・朝食と、アフタヌーンティーまでついてその価格だった。

 イングランドマナーハウス荘園領主の旧邸で、門から建物まで車で2〜3分かかる)を改装したホテルも同じくらいの価格だったと思う。

 それが・・・

 口コミによると、「紙のように薄い壁」「山のようなハエ」「卵の腐ったような匂い」「梯子のような階段」「難しい顔をしたホスト」「窓もなく天井も低い地下室」「荷物を置く場所すらない狭すぎる部屋」というような宿が2万円くらいするのがむしろふつうだ。

 朝食は一人12ユーロが当たり前のようで、3人の朝食だけでプラス5千円ということになってしまう。

 もっといい条件のところもあるのかもしれないが、そういうところは(あったとしても)もはや空いていない。見たところ2/3近い宿がすでに満室という感じである。旅行はまだ5か月も先だというのに。

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 困るのが、「少し郊外に走ればリーズナブルな宿がある」というヨーロッパの常識を裏切る点だ。

 アイスランドでは、少し郊外に走るということがすなわち、「何もない荒野」を意味する。

 実際、ポツンとあるホテルも稀にはあるが、その口コミには、"Nothing, I mean literally NOTHING around the Hotel"とか書いてあったりする。ホテルの周囲には、掛け値なしに「ほんとうに何もない」のだ。

 いったい、朝食とか夕食とかはどうするんだろうと思っていると、あるゲストハウスの説明には、「もっとも近い店まで50キロあるので、食べ物は持参してください」とあった。

 当初、「キッチンがついている」という宿がものすごく多いことに違和感を覚え、「キッチンなんかいらないのに」と思っていたのだが、これは要するに「外食できるところなんかありませんよ」ということを意味するらしい。

 ああ、もう・・・ なんというか、とんでもないところに行くことにしてしまったなあ・・・

 いま急に思いついた!

 アイスランド一周なんかやめて、レイキャビクから半径100kmくらいだけの範囲でのんびりするのはどうだろう? それなら悲惨な目に遭うことは避けられそうな気もする。

 でも結局、何もない荒野をお腹を空かせながら延々走り続けることになるんだろうなあ・・・

 昔、ピレネー(フランス・スペイン国境の山岳地帯)で、いくら走ってもホテルが見つからず、ちょっと困ったことを思い出した。その時も結局、びっくりするくらい安いホステル(スペイン語で70ユーロと聞こえたので「3人だからまあそんなものか」と思っていると、結局ひとり7ユーロ(千円未満!)だった)に泊まれて、近くにはカフェもレストランもあったのだが、アイスランドはそれほど甘くなさそうだ。